ジェラート_1
「ふたり」の前
4歳。このころは幸せの中にいた。イタリアの田舎で母と二人きりで暮らしていた。母以外に触れ合う人は近くに住んでいる少年とラジオだけだった。ジェラートは母を愛していたし、顔も声も覚えてはいないほど幼いころに亡くなった父のことも愛していた。このころ、ジェラートと2歳上の彼の友達は探偵ものにどっぷりとはまっていて、よく探偵ごっごや刑事ごっこをしていた。その遊びはしかし、「カマキリを緑にした犯人はあの釣り人だ」「すりむいて血が出ているがこれはあの家のおばさんが犯人だ」というような無理やりな、『推理』はどうでもいい『犯人作り』だった。
母は病気を持っていて、よく街のほうへ薬をもらいに行っていた。ジェラートはその病名は知らなかった。
ある日、母は倒れた。薬を服用しようとしたが、手が届かずそのまま死んだ。ジェラートはその遺体を発見すると急いで友達を呼んだ。このときはまだ生きていると思っていた。母は運ばれ、ジェラートは母の知り合いに引き取られた。友達は言った。「犯人は薬を渡したやつだぜ」
新しい家庭へ連れられた意味がわからなかった。母は帰らぬことを理解するとわんわんと泣いた。女はジェラートを音がたつほどの強さでたたいた。一度きりではなかった。「泣いてはいけないこと」を理解した彼は、笑顔でいようと努めた。しかしそれでも女はたたいた。以前より強く。「笑ってもいけない」と理解した。それからはなるべく、なるべく感情が大きく表にでないように、顔に出ないようにしようと決めた。女はそれから直接手を上げることはしなかった。
引き取られた先の夫婦はジェラートにやさしくはなかった。女のほうはいつも不機嫌な目つきでいるし、男はジェラートと話そうともしなかった。そこでジェラートには仕事ができた。新聞を取ること。朝の掃除。下着の洗濯。朝食の用意。昼食の用意。夕食の用意。初めは一つだけだったが、一つ難なくこなせるようになると、一つ増えていった。女は理不尽なことも言ったし、明らかなやつあたりもあった。男はたまにジェラートをじろじろと見た。生活の中に不満もあったが、「住まわせてもらっている」という気持ちから、夫婦に対して反抗したりはしなかった。ここじゃない場所は自分にはないことは5歳ほどの幼い少年にも理解できた。この夫婦が『母の知り合い』だということも大きかった。味方はいない。
そしてやがて学校にも通いだし、とくに大きな事件もないまま過ごした。3年後、一人の少年と出会った。
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